第99章 敵わない
朝餉の後、三成は今日も軍議があるから、と城へ登城し、葉月は秀吉の御殿へ戻る。
「三成様、私と月代さんの会話、もう聞いちゃ駄目ですよ?」
御殿を出て二人でそれぞれの目的地へ歩きながら、葉月は釘を刺す。
「そうは言われても、あそこは私の部屋ですからね」
しれっと言う三成に、葉月はむぅという表情をして、じゃあ、と言う。
「わかりました。月代さんとはこれからは、台所でこっそり会話する事にします」
「全く、貴女はどうしてすぐそう反論するんですか。
そういうところも可愛いですけれど」
三成は呆れたように葉月を、道端であるにも関わらず抱き寄せる。
「三成様、いくらなんでも…ここでは…」
「葉月さんが可愛い事ばかり言うからです。
貴女の我儘のような言葉も可愛いですよ」
「も…三成様ってば…」
葉月は三成に言われ、顔を赤くしたまま抱き締められていた。
「さ、では、そろそろお互い行きましょうか?
…葉月さん、どうしました?顔が赤いですよ?」
「み、三成様のせい、でしょう…!」
「おや、そうですか?」
もう、と葉月は三成の胸を空いている手でぽかぽかと叩くが、三成は軽く笑って、その手を握るとそのまま葉月を引き寄せ、軽く口付けをした。
三成のそんな行為に、葉月は何も言えずに顔を赤くするだけだった。
その様子に三成はくすりと笑み、葉月が愛しくてならないといった表情で見つめ、そっと耳元で囁いた。
「葉月さんが私の許へ来れば、嫌でもあの女中と毎日話せますよ」
その囁きを聞いた葉月は更に顔を赤くした。
「それはそうですけれど…それって」
「早く葉月さんに来てもらいたいものですね」
三成にさらりと言われた上に、にっこり微笑まれ、葉月は反対に何も言えず、これ以上ない程赤くなったまま、三成を見つめるだけだった。