第96章 月代
外は雨が降り始めていて、廊下を人が歩く音が聞こえにくくなっていた。
なので、三成が城から戻って部屋の前に居る事に二人は気付いておらず、月代への対応をうまくさばいてしまった葉月の様子を、三成は廊下で聞いていた。
『現代から来たかただけあって、この時代の女人とは性質が違うのか…』
三成も月代の態度に気付いていない訳ではなかったが、自分ではどうしようもないし、特定の女中と揉めても面倒な為、余計に話しかけるでもない態度を貫いていた。
葉月のさっぱりとした言い方で月代の態度を改めさせた姿は、この時代の者にはない人のさばきかただな、と三成は思うのだった。
月代はすっかり葉月には心を許したようで、では私は仕事があるので、と立ち上がる様子に気付き、三成から襖を開けた。
「三成様…!」
ちょうど立ち上がった月代は三成と視線がかち合い、途端に赤くなる。
ああ、やっぱり彼女は三成様が好きなんだな、と葉月は思いながら、座ったまま三成に挨拶して頭を下げた。
「お戻りだったのですね。お出迎えせず申し訳ありませんでした」
竹からの指導の賜物か、挨拶はきちんと出来るようになっていた。
「ただいま戻りましたが…どうしましたか?」
知らん振りして三成が聞くと、月代は慌てて失礼しました、と部屋を出て去り、葉月は笑顔で年の近い月代と仲良くなりました、と三成に伝えた。
三成は襖を閉め、葉月のすぐ側に座り、両手を握ると言った。
「実は廊下で二人の会話を、聞くとはなしに聞いてました」
「え…」
途端、聞かれていた事に葉月は驚いた。