第96章 月代
どうぞ、と女中は声を掛ける。
葉月は思い切って、その女中に問う。
「あの、貴女、お名前は何ておっしゃるの?」
女中は案内しようと先に立っていたのを、足を止め、葉月に向かって振り向いた。
「私の名を聞いてどうなさるのでしょうか?」
また冷たい瞳で見据えてくる。
「どうもしません…名前を知りたいだけです…」
眼差しに負けそうになるのを、ふんばって更に聞く。
「…私は月代と申します」
「つきよ、さん…綺麗な名前…」
ほう、と名前を聞いて、素直に感想を漏らすが、月代はまゆをひそめるだけだった。
「名が綺麗だろうと何だろうと、私が女中である事に代わりはございません」
踵を返すと、月代はさっさと案内に歩き出す。
葉月は追い掛けるように月代の後を追い、三成の部屋の前へ来る。
それでは、と月代は下がろうとするが、葉月は月代の腕を掴み、三成の部屋へ一緒に月代を引っ張り込む。
「な、何をなさいます、葉月様!」
「いいから!」
月代を無理やり座らせると、葉月も目の前に座り込む。