第94章 誰かを愛する
舞はふぅとため息をつき、微笑んで葉月を見た。
「葉月さんが三成くんと恋をするのと同じで、私も時を駆ける恋をしているの」
「舞さん…」
ようやく聞いた舞の真実。
「でも私のこの恋は叶うかわからないの」
「…どうして、ですか?だって武将様は皆さん、舞さんを大切にしてますよね?」
「私を大切にするのは、織田家ゆかりの姫だから、よ。
実際の私は片思いする一人のおんなでしかないの」
「片思い…」
舞から以外な言葉を聞いて、葉月は呆然とする。
「信じ、られない…こんな綺麗な舞さんに靡かない武将様がいるなんて…」
「あら、三成くんは私じゃなくて葉月さんを選んだけれど?」
からかうような言い方をされ、葉月は言葉に詰まる。
「うあ…えーと、三成様は、えーと、目が悪いんです」
苦し紛れに言い訳をする葉月に、くすくす笑う舞。
「ありがとう、大丈夫よ。私、信長様を助けてしまった時から、きっと信長様の役に立つため、この時代に来たんだなって思ってる」
「そうすると、舞さんの片思いの相手って…」
「そう、信長様。でも信長様は私を見てはいらっしゃらない。
今は天下統一のために世の中を見ていらっしゃるの」
淋しそうな表情を浮かべた舞の手を握って、葉月は言う。
「そんな事ないですよ…!そういう人ほど、何かの拍子に近くにいるおんなの人に気付くものです」
「ふふ、ありがとう。今は邪魔にならないように、そして、信長様が私を本当に心から欲してくれるまで、待っているの。
私が本能寺で信長様を助けたのは、きっと信長様と生きていくためだって思いたいし」
舞の想いを知る葉月。
凛とした横顔に、天下人を愛した誇りが垣間見えた。