第94章 誰かを愛する
「私、こちらに来た時、名字が上杉と知らずに名乗ってしまって、怪しまれました。
でも上杉って言わなかったら、反対にどうなっていたかなって思います」
舞はそのまま無言で見つめる。
「名乗って怪しまれたからこそ、秀吉様の御殿でお世話になっていて、でも、上杉という名字でなかったら、もしくは名前だけ名乗っていたら、今はどこでどうしていたのかなって思うんです」
「確かに、秀吉さんの御殿にいなかったら、三成くんと会う事もなかったって事だよね」
「それもそうですけれど、まず、どうやって生きて行くんだろうって考えました」
「…生きて行く…」
「何もわからない、知っている人もいない、そんなところでどうやって生きていけたかなって。もしかしたら悪い人の手にかかって、殺されていても不思議じゃなかったのかもって、時々思うんです」
「…葉月さん…」
「だから、ここでこうして生きていられて、三成様とめぐり逢ったのも、私がこの時代でやらなきゃいけない何かがあるのかなって思うようになったんです」
舞は葉月の横顔を見て、精神的に強くなっていく人の姿を見たような気がした。
「舞さんがこの時代に来た意味は何だと思いますか?」
突然舞に話しが振られる。
「私の、来た、意味…?」
「はい、そうです。舞さんはどうしてこの時代に来たと思いますか?
確か本能寺の変で信長様を助けたんですよね?
それだけの為に来たと思いますか?」