第94章 誰かを愛する
「はい、すごくなめらかだなって。私が教えた最後の頃はまだほんの少し荒かったんです」
「その後、私が教えこんだからねぇ」
後ろから声がし、振り返ると春が立っていた。
「春さん!」
葉月は立ち上がり、春に飛びつく。
「…あんた、また言うけれど、抱き着く相手が違うよ」
何度目かの同じ言葉を発するが、春も呆れつつ嫌な顔はしていない。
「春さんには抱き着きたいんですよ」
嬉しそうに春にくっつく葉月を見て、舞はくすくす笑う。
「舞様、いらっしゃいませ、富弥の作る羊羹は本当に出来が良くなって、茶屋の看板になっているんです。ゆっくりしていってくださいな」
「ありがとう」
舞は礼を言って、その羊羹を一口、口に入れた。
「あら、ほんと、美味しいわ」
舞も笑顔になって口を動かす。
春から離れた葉月も席に座り、一緒に羊羹を食べ始めた。
「…私は運が良かったのでしょうか…」
しばらくして、ぽつりと葉月が言い、舞が葉月の顔を見る。