第94章 誰かを愛する
「いらっしゃい、お、舞様に葉月じゃないか」
富弥が愛想よく声を掛けてくる。
「富弥さん、こんにちは」
二人で挨拶をして腰掛け、羊羹とお茶を頼んだ。
「久し振りだな、妻修行やってるのか?」
羊羹とお茶を運んできた富弥に話し掛けられると、葉月が言い返す。
「富弥さん、違うよ、妻修行じゃないってば、武家修行だよ」
「おまえの場合、どっちも一緒だろ?ほい、羊羹とお茶。
舞様、ゆっくりしていってください」
「ありがとう」
舞はゆったりと答え、早速お茶をすすった。
「もう、富弥さんまでからかうんだから…」
隣で葉月がぶつぶつ言いながら、羊羹を口に運び、手が止まった。
「へぇ…富弥さん、うまくなった…!」
「…どうしたの?」
舞が手を止めた葉月に話し掛けると、ぼそりと葉月がつぶやいた。
「あ、ごめんなさい。富弥さん、羊羹作るの上手になったなって思ったんです」
「…そうなの?」