第94章 誰かを愛する
ある日のこと。
舞が葉月を誘い、一緒に市へ行く。
「初めてですね、舞様と一緒に外へ出掛けるの。
あ、舞様というより、おんなの人と出掛けるのが初めてです」
嬉しそうに葉月が言うと、舞が注意する。
「二人の時は『様』は駄目」
「あ、そうでした」
「でも私もたいてい一人だから、おんなの人と歩くのって葉月さんとが初めてかもしれないかなぁ」
「そうなんですか?でも舞様…さんは、たいていどなたか武将様と一緒だって聞いてますよ」
「うーん、まぁそうかも。何度か危ない目に遭っているからかなぁ」
「危ない目?」
葉月は驚いて舞の顔を見る。
「うん、織田家ゆかりの姫って立場にいるせいか、ね。もう慣れたけど」
「姫様もラクじゃないんですね」
「そうだよ、時々姫として、大名のかたと謁見する事もあるからね。
その時は正装して信長様の側に黙って座っているんだよ。
もうね、動けないから、足がしびれて仕方ないのよ」
舞の愚痴に、くすりと笑う葉月だった。
…二人が来たところは、葉月が働いていた春の茶屋。