第90章 猿飛佐助
夜、安土城の舞の部屋。
行灯を寄せて縫物をする舞の前に、天井からこつんと小さい音が聞こえた。
舞が天井を見上げると、天井板が一枚外され、天井裏から佐助が顔を出す。
「やあ、舞さん、良いかな?」
「佐助くん、大丈夫だよ、いらっしゃい」
待ってましたと言わんばかりの舞の態度に、少しだけおやと表情を変えた佐助は音もなくひらりと下に降りる。
すぐにお茶を淹れて、舞は佐助に話し出す。
「あのね、葉月さんて人がいるんだけど」
「葉月さん?」
「そう、今は秀吉さんの御殿にいるんだけどね、この人も平成から来た人なの」
「…え?」
突然出てきた平成の言葉に驚く佐助。
「どういう事?」
「私も知ったばかりなの」
そう言って舞は知った経緯を佐助に話した。
「そんな子がいたなんて俺も全く気付かなかったよ。どこの茶屋に居た子?」
場所を説明すると、佐助は思い返すように眼鏡の奥の目を細め、腕を組み、しばらくして思い出したような様子を見せた。