第12章 料理する
あんずが入っていた羊羹を口にしてから数日後。
ようやく秀吉は、その羊羹の出どころを聞いてなかった事を思い出した。
女中頭の竹を呼び、菓子の事を聞く。
「数日前の羊羹にあんずが入ってたが、あれはどこで入手したんだ?」
しばらく何の事か考えて竹は、ああ、とうなずいて答えた。
「葉月さんですよ」
「葉月?」
怪しい、件の娘の名前が竹の口から出てくる。
「はい。葉月さん、見た事や食べた事のないお料理を、いくつか作ってくれました」
「…そうなのか?」
秀吉は目を瞬かせる。
竹は続ける。
「昨日、お召し上がりになりました、なすの味噌炒め、あれも作られましたよ」
昨日の膳を思い出し、なすの味噌炒めを思い出す。
「…ああ、あれか…」
「あとは同じなすでも、そのまま揚げて出汁と醤(ひしお)を合わせて漬け込んだものも、えーと…二日前でしたかしら、お出ししてるかと」
「…ああ、そういえば、そんなのあったな…そうか、葉月が作ったのか」
立場上あまり顔を合わせるのも良くない為、葉月の事を忘れるようにしていた秀吉は、久し振りに声を掛けてやろうと思う。
「葉月は今、何をしてるんだ?」
「今ですか?
三成様のお忘れ物を届けに、御殿へお使いに行ってもらってます。
御殿の場所がわかりませんからね、ちゃんと見張り代わりが付き添ってますよ」
秀吉の聞きたいことを先回りして伝える竹。
やはり、この女中頭には、頭があがらないな、と思う秀吉だった。