第84章 嫉妬?
「あ、三成様、おつかれさまです」
三成に明るく声を掛ける葉月に、そのすぐ横でやはり三成に挨拶する富弥もいた。
「石田様、お勤めご苦労さまです」
三成は葉月の前まで来ると、ぐいと片腕を引っ張り、富弥から離し、富弥がいるにも関わらず抱き締めて、首に顔を埋める。
「…え?え?ど、どうしたん、ですか?三成様?」
焦る葉月に三成は抱き締めたまま答える。
「会いたかったからこうしてるんです。今日もがんばりましたか?」
「…は、はい…いっしょう、けんめい、働きました、よ…?」
「何もされませんでしたか?」
小声でそっと伝えてくる三成に、ああ、心配させてしまったんだ、と気付く葉月。
「はい、大丈夫でしたよ。心配してくださったんですね」
葉月は礼を言って、三成の胸に顔をぎゅっとくっつけた。
「あーのー、抱き合うなら、二人きりになってからにしてもらえねぇですかね」
二人で顔を上げると、目の前で富弥が呆れ顔で見ていた。
「あ…あ…えーと…」
すっかり富弥を忘れて二人の世界に入ってしまった事に、焦る葉月だが、三成はゆっくり腕をほどき、富弥の顔を見てふ、と笑みを浮かべた。
その笑みはわざとそうした、という意思表示の笑みにほかならず、富弥は三成の意外な顔に『へぇあの穏やかな武将様が、おんな一人に嫉妬してら』と思わせるに十分だった。