第83章 餡作り
ぱしんと腰のあたりを軽く叩かれる。
以前、葉月が春に言われていた事を、葉月が富弥に言う。
「ちくしょー、いてぇな」
餡を混ぜながら富弥はぐだぐだ言う。
「つべこべ言わないでしっかり混ぜてください!
ああああ、そんないい加減な混ぜ方しないでください!」
葉月は怒って注意するが、富弥は文句を言いながらも丁寧に餡を混ぜた。
「そうそう、そうです!」
混ぜ方を変えた富弥に、葉月は今度は褒める。
「餡ひとつ作るのも大変なんだな」
混ぜながら富弥は言う。
「そうなんです、私も当初は春さんに、もっと丁寧にって注意されまくってました」
「なんだ葉月もか?」
手は動かし、顔だけ葉月に向けて、富弥は聞く。
「そうですよ、最初から全部完璧な人はいません」
当然だ、と言わんばかりの表情で葉月は答える。
「そうか、それなら良かった。俺だけこんなに注意されてるかと思ったよ」
混ぜながら肩をすくめる富弥に、反対に葉月が聞く。
「え、私、そんなに注意してますか?」
「ああ、してる、してる。鬼みたいだ」
鬼、と言われ葉月はむくれた。
「あ、ひどーい、鬼だって!」
「ははは、ほら、餡こんなんでどうだ?」
急いで話題を変えた富弥に、それ以上文句は言えず、餡について話し始めた。
「あ、良い感じです、あとちょっとですね」
餡を作りながら、すっかり打ち解けた二人に、春はふむと感心しながら見ていた。