第82章 好きの温度
「残念ですが今日は秀吉様の御殿に戻られます。でもちょくちょくこちらに来ていただくつもりですよ」
年配の家臣が喜ぶ。
「それはようございました。今日は三成様の寝癖もなく、直していただけたようで、早く奥方様にはこちらにお住まいいただきたいものですな」
「えっ…まだ、奥方様じゃないですよ…」
慌てて否定するものの、その家臣は頷くだけだった。
「でもそのうち輿入れなさるのでしたら、もう奥方様も同然でございます」
「…はぁ、そういう、もの、でしょうか…」
一人で納得されてしまい、どうにも出来ず、そのままにしておく事にした。
二人で途中まで一緒に外を歩く。
「三成様の家臣のかたって面白いですね」
「そうでしょうか?」
昨夕と今朝の事を思い出して、葉月はくすくす笑う。
「そんなに面白い人、いましたか?」
「いましたよ。年配のかたで寝癖を直してくれたって喜んでたかた」
「ああ、あれは感激屋なのです。なんでもすぐ嬉しがる。昔からそうなんですよ」
「でも、とても、三成様が大好きなんだなって思いました」