第78章 揺れる心
家臣達から解放され、ようやく三成の部屋に二人で入る。
本が雑多に置かれた部屋に、葉月は目を丸くする。
「すごい…本の量ですね、これ、全部読まれたのですか…?」
「ええ、全部読んでますよ。ところどころ必要そうなところがあるので、下手に片付けられないのです」
「そうなのですね…」
積み上げられた本の山のひとつを覗き込み、一番上の本の題名を確認しようとするが、例のうにょうにょ文字で葉月には読めない。
「あの、これ、何て書いてあるのですか?」
本の題名を教えてもらおうとすると、三成に驚かれた。
「葉月さんは字が読めないのですか?」
「…違います、こういうぐねぐねした文字が読めないだけです。字自体は読み書き出来ます…祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…」
そして、三成の前で平家物語の序文を読み上げた。
「葉月さん、どうしてそれをご存知ですか?」
「現代にいる時に習いました」
「他には何を?」
「つれづれなるままに、日暮らし机にむかひて…」
「…それ、何ですか?」
怪訝な顔をして三成が聞いてくる。