第73章 富弥と話す
しかし、と富弥は続けた。
「俺はあの茶屋の羊羹や団子が好きなんです。だから茶屋へ行くなというは厳しいのですが」
瞬時に三成の頭が回転する。
「貴方のご実家は料理屋ですが、貴方は店には立たないのですか?」
「俺は次男だからな。店を継ぐのは兄なんだ」
「団子を作ったりは出来るのですか?」
矢継ぎ早に聞いてくる三成にへどもどしながら富弥は応える。
「ああ、団子を作るというより、料理の修行らしい事はさせられてるからな」
「だったら簡単です。葉月さんは豊臣の姫として学ばなくてならない事が有り、今後茶屋の手伝いが出来なくなるのです。
でも茶屋側としても葉月さんを頼みにしているから早々手放せない。
だから貴方が葉月さんの代わりに茶屋へ働きに行ってはどうですか?」
「俺が…茶屋の、手伝い…!?」
さすがに驚く富弥に、三成はかぶせる。
「突然でしょうけれど、葉月さんの事もあり、考えている余裕があまりないのです。
貴方が茶屋の菓子が好きならば、葉月さんから菓子を学ぶ事も今なら出来るでしょう」
「…さっき、俺に、葉月には近寄るなと言ったばかりだよな?」
いきなり内容の変わった条件に、富弥はまゆをひそめる。
「ええ、近寄っては困ります。でも貴方が茶屋の手伝いを今後してくれれば、いろいろと助かるのも事実です。だから手伝いをするなら条件を変えます」
三成のきっぱりとした態度には、富弥はこりゃ頷くしかないな、と思わせるものがあった。
「わかった。どうせ俺は次男でごく潰しだからな。茶屋を手伝うよ」
「それなら早いです。では私は茶屋の女将に伝えて参ります。明日から茶屋に入って、葉月さんからいろいろと学んでください」
「明日から?ああ、わかったよ、石田様の言う通りにするさ」
半ば投げやりに富弥は返事をし、葉月の後釜として茶屋で働く事が決まったのだった。