第71章 信玄、茶屋に来る
おんな連れだったが、色気が歩くそばからこぼれ落ちるような身なりのきちんとしたおとこも来て、羊羹と団子両方を『うまい』と連呼して堪能して行った。
そのおとこは葉月を見て、声を掛けてきたが、春が『恋仲がいるんですよ』の一言でそれ以上声を掛けさせないようにしてくれた。
そのおとこが去ってから、春と二人で噂する。
「春さん、さっきのかた、すごい色っぽい人でしたねぇ」
「ずいぶん楽な恰好をされていたけれど、着物も持ち物も高そうなものだったから、身分はそうとう高いかただね」
「でも羊羹とお団子、両方召し上がって、美味しいと言われてたから、甘いものがお好きなかたなんでしょうね」
「それは言えてるね。案外また別なおんな連れで来られるかもしれないよ」
実際、後日、春の言う通り別なおんなを連れて、色っぽいおとこ武田信玄は、羊羹と団子を食べに茶屋に訪れるのだった。
店仕舞いの刻限となり、同時に竹が茶屋へやって来た。
「葉月さん、お店の店主さんいらっしゃる?」
「竹様、ご足労くださりありがとうございます、今、お呼びします」
葉月は店の中に入り、春を呼ぶ。
「何だい、葉月?」
そして出て来て、竹と会う。
「まぁ、お竹、ちゃん?」
春が驚いた顔で竹に声を掛ける。
その春の言葉に竹も驚いて春を呼ぶ。
「そういう貴女は、お春ちゃん?」
「え?え?え?」
二人が知り合いらしい事に、葉月は目をぱちくりするだけだった。