第69章 祝われる
「それでは今日は葉月さんが、私の御殿にいらっしゃいますか?」
「え?三成様の御殿ですか?えーと、良いのでしょうか?」
行って良いのか、すら、葉月にはわからない。
「良いのですよ。秀吉様には伝えておきますし、竹さんをお送りする者は私のところから一人連れて行きますから」
「え、と、それなら、はい、伺います」
良いのかな、と思いつつ葉月は三成の御殿へ行ってみる事にする。
ちらりと気になったのは、以前忘れ物を届けた時に対応した女中の厳しい眼差しだった。
「あの、三成様?御殿のかたは、私の事をご存知なのですか?」
思い切って尋ねてみるが、三成からはいいえ、という返事だった。
「御殿の者にはいちいち言いませんからね。
葉月さんを連れて行って、私の婚儀相手と言ったら驚くでしょうね」
「そ、そんな形で良いのですか?」
葉月は驚く。
「あ、あの、せめて秀吉様の御殿の竹様のような、女中頭のかたはいらっしゃらないのですか?そのかたにだけは、先にお話ししておいたほうが、良いのではないでしょうか…?」
「女中頭ですか?私の御殿には居りませんが、誰かに話しておいたほうが良いのなら、女中の誰かに伝えておきましょうか?」
この複雑な心境をどう伝えれば良いのか。
三成の御殿で働く女中の中には、真剣に三成に恋する者が居る。
その事を三成に言うのは憚られるが、嫁ぐ予定の自分が突然行って、それを知らせれば、反対にその恋する女中が嫌な思いをする事にならないか。
だから、クッションになるような、秀吉の御殿の竹のように、もののわかった女中が居れば早いのだが、どうもそういった人は三成の御殿にはいなさそうだ。
「いえ…それなら伝えなくて良いです…」
つまり、味方の居ない中で訪問する事になるかもしれないのか。
杞憂で済めばいいのだけど、と、葉月は内心小さくため息をついた。