第9章 悪戦苦闘
戦国時代に来てから数日。
明らかに見張られてる感はなきにしもあらずだったが、女中頭の竹からいろいろなことを教わり、女中達の手伝いをしながら葉月は毎日を過ごしていった。
「裁縫は苦手なんです」
そう言って縫い物に悪戦苦闘する。
隣に座る女中が親切に教えてくれるが、なかなか上手く縫えない。
「お城の舞様は、大層縫い物が上手でいらっしゃるんですよ」
「舞様?」
「はい。織田家ゆかりの姫様なのですが、縫い物はお上手ですし、お優しいし、それに大変お美しくていらっしゃいます。
葉月さんはお目にかかった事はないですか?」
「…残念ながら、ない、です。
そんな素敵なかたが、お城にいらっしゃるんですね…」
戦国時代は全てが手動だ。
家電に囲まれて生きてきた身には、何もかも自分の手で行うのがなかなか難しい。
なんだか、縫い物どころか何も出来ない、自分をみじめに思った。
縫い物が終わって、自室へ戻る。
「…考えてもしかたないか…」
葉月は荷物から黒の道着と袴を出し、着替える。
木刀と小太刀を持ち、目の前の中庭に裸足で降りる。
立ち位置を決め、両方の木刀を置く。
最初は木刀を右手で取り上げる。
打ち太刀(うちたち)の一本目は、木刀を頭の上で構える。
所作をひとつひとつ確認しながら、剣道形の練習を始めた。
「…あのかたは…?」
少し離れた廊下から、その練習する姿を見る人影があった…