第60章 桃色な空気?
「今のそれ。座って三つ指ついて、三成にいってらっしゃいませ、なんて大店の娘でもないと、普通の町娘はたぶん知らんぞ。
それから…料理もどこで覚えたんだ?
おまえの調理法は見た事がない、と御殿の料理人も首を傾げていたと聞いている」
「…それ、知りたい、ですよね?」
「当然だろう。俺の部下と一緒になるおんなが身元不明のままでは困るからな」
「部下と一緒…」
三成と一緒になるには、自分の事を話さなくてはならないか、と葉月は息を吐く。
「わかりました。お話ししますが、三成様の時と一緒にお話ししたいのですが…」
「ああ、そうしたら、城から戻ってからだな。三成、今日も来るんだろう?」
「…は、はい、そのご予定、です…」
聞かれて、また一晩一緒に過ごす事まで暗示されたように、葉月は恥ずかしそうに返事をした。
秀吉はその姿を見て、ああ、と首を横に振る。
「葉月、三成がおまえと一緒に過ごすのは何とも思わんから気にするな。
それより、こうなったら、俺としては早くおまえを三成の御殿に移してやりたいんだがな。
まぁその辺はちょっと待ってくれ」
「は…はぁ…ありがとうございます…」
それじゃ、夜には、と秀吉は登城の準備の為、竹と自室へ向かった。
葉月も部屋へ戻る。
脚の違和感は残っており、全身に変な疲れが残り、何をするにもおっくうでならない。
『竹様がやすむように言ってくれたから、ゆっくりしよう…』
ふと思いついて、自分の荷物から一緒に飛んできた小説を取り出す。
『この文字見るの、久し振りだな…』
文机の前に座り、小説の表紙をめくる。