第8章 秀吉御殿
「…は、はい…竹様、葉月です。よろしくお願い致します」
秀吉との話しで上杉の名字は、出さないのが上策だと気付き、名前だけ名乗る。
「まあまあ、こちらこそよろしくお願いします。
それにしても秀吉様も隅におけませんね。
こんなお綺麗なかたを今迄隠していらしたなんて」
含みを持った言い方に、秀吉は反論する。
「…おい、伝えさせたはずだが?
この娘は、事情があって預からなくてはならない者だ、と。
俺のおんなではないぞ」
竹は、秀吉がそれを言うのをわかっていたように、ほほほと笑う。
「わかっておりますよ。
秀吉様は案外堅物でいらっしゃるから、からかいたくなるのです」
からかう女中頭に、秀吉は苦笑するしかなかった。
「…竹には敵わないな。
そういえば、三成はどうした?」
「三成様は、ご必要な書物をお持ちになって、既にお帰りになりました」
今度はみつなりという名前を耳にする。
『うーん、聞いたことある名前だな』
葉月は首を傾げた。
先に秀吉が去り、竹と二人になる。