第54章 竹のこと
その頃、葉月は竹に連れられ、湯浴みをしていた。
富弥のちからを知り、木刀を持っているくらいでは、男に適わないと知る。
『これからどうしよう…富弥さんは来ないとしても、同じ事が起きない訳じゃないよね…
でも茶屋から帰るのはあの時刻。どうしても暗い道を歩く事になる…』
富弥の下卑た声が忘れられない。
あんな人だと思わなかった…
無言で湯につかる葉月を、竹は観察するように見ていた。
一人で入れるという葉月に、強引に手伝うと言って湯殿に入り込み、白い裸体を竹に晒すところを見る。
先程の葉月と三成の様子から、男に辱めを受けるような事があったと思われるが、特に大きな傷や出血は無い。
気になるのは手首についている、強い力で押さえ付けられたとみえる跡。
しかし、この様子では何か起きる前に、終わったとみるのが正解か…
葉月は無言でお湯につかり、じっと湯の表面を見つめていた。
「葉月さん」
声を掛けられ、はっと顔をあげる葉月に、穏やかな微笑みを見せて、竹は言う。
「後は一人で大丈夫なようね。先にお部屋に行ってますね」
「…はっ、はい…」
竹は湯殿を出て、葉月の部屋へ手拭を持って行く。
しばらくして、葉月も湯から出て、夜着へ着替えて部屋へ戻る。