第7章 宵の明星
「…あの、秀吉様」
「うん?何だ?」
葉月が怪しい人物である事に相違ないだろうに、接する態度は優しい。
「私、怪しいんですよね?でもどうして、不本意という理由だけで牢屋に入れずに、秀吉様のお住まいに連れて行ってくださるんですか?」
簡単な理由さ、と軽く言って、葉月の頭に軽くぽんと片手を置いた。
「怪しいのは変わりない。
しかし、やっぱり、若い娘を牢屋に置きたくないだけだ」
「あのー、どうやったら、私の嫌疑って晴れますか?」
横を歩く秀吉を見上げて、葉月は疑問をぶつける。
「んー、そうだな…では、町娘らしくしてろ」
「…それで嫌疑が晴れるんですか?」
しつこく聞く葉月に、真面目な表情をして秀吉が言う。
「おまえの処分は御館様が決めるからな。
俺が出来る事は、御館様が戻られるまで、おまえを見張っておくことだけだ」
「御館様って織田…信長様ですか?」
ちょっと前に、驚いて大声で叫んだ名前を口に出す。
「おう、そうだ」
「確か…天下布武、でしたっけ…」
ほう、と意外そうな表情を秀吉がする。
「おまえ、よく、御館様の天下布武を知ってるな」
「いや、だから、先ほども言いましたが、未来から来たので…
信長様も秀吉様も光秀様も未来では有名ですよ」
「ははは、そうか、そうか」
全く信じてないように笑う秀吉に、しかし葉月は、この人良い人だな、と思うようになっていた。
「もうすぐで俺の御殿だ」
秀吉の御殿が見えてくる。
そして。
空は、宵の明星が輝きだす時になろうとしていた…