第45章 距離が近付く
「そうですね…私の我慢が聞かなくなって、葉月さんを無理やり私の御殿へ連れて行ってしまう事になりますか」
「そ、そんな…」
三成のペースに巻き込まれている葉月だった。
しかし、葉月には富弥に言われたあの言葉が気掛かりだった。
『家柄が釣り合わない』
「あの、三成様」
思い切って聞いてみる。
「なんでしょう?」
からだを三成の両腕で囲まれたまま、葉月は気になっている事を質問した。
「三成様は武士ですが、私は普通の娘です。
その…一緒になるとしても身分が違いすぎます。
富弥さんにも言われました。
三成様が最後に選ぶのは、同じ身分の武家のお嬢様か大店の娘さんだ、と。
私は…側室になる、という事ですか?」
三成はしばらく無言でじっと葉月を見つめ、ゆっくりと話した。
「私が、秀吉様の下で働いているのは、何故か、ご存知ではないですよね」
「…はい」
「秀吉様はもともと身分低い出で、私も武士の中でも低い地位の出身なんです。
私は幼い頃、寺に預けられた事が有り、その寺に秀吉様がご滞在になりました。
その時、私は秀吉様とお話しする機会を頂いたのですが、これがきっかけで、私は秀吉様の許で働いて、秀吉様の目指される世を一緒に作りあげたい、と思ったのです」
そして秀吉の許で働く事を決めた一言を教えてもらうが、それは葉月にとっても重要な夢、だった。
「身分低い出身であれば、秀吉様はこのようにおっしゃっているのです。
身分差のない世を作り、誰もが笑える世を作る、と。
だから、私は武士の娘でなくても、大店の娘でなくても、貴女であるなら、どんな身分でも構いませんし、そんなものは気にしません。
確かに、複数の女性を置かれるかたもいらっしゃいますが、私はそのつもりはありませんし、貴女さえ私の許にいてくれれば良いのですよ」
身分差の無い世。
戦国の時代から現代まで500年程の期間が有り、すぐには身分差がなくなったとは言えないが、現代の身分差の無い世の礎を作り出したのは、豊臣秀吉だったのか…
「三成様、ありがとうございます。
それを伺えて良かった、です」
三成は少なくとも、自分を側室にするつもりではない、と知る事が出来た。