第38章 秋祭りへの支度
空は青く澄み雲は天高く、秋を告げている。
そんな中、安土城下で民が心待ちにしているのが、秋祭り。
ひとびとの動きも、いつになく軽やかで、早く夕刻になり祭りへ出掛けたい、という全体の雰囲気が見え隠れしていた。
「今日はもう、閉めるよ」
春に声を掛けられ、はーい、と返事をする葉月。
「でも、本当に、良いんですか?私のせいで早仕舞いなんて…」
春が、店は早仕舞いすると言ってくれたから、秋祭りへ行く気になった。
しかし、実際早仕舞いとなると、なんとなく罪悪感を感じるのも事実だった。
「いいから。私も久し振りに祭りを見てこようと思ってね」
「え…じゃあ、一緒に行きますか?」
春が一人で祭りを楽しむのは気の毒だから、と勝手に一緒に行くかと誘う。
「ああ、だめだめ。葉月は石田様が誘ってくださってるんだから。
他の人を巻き込まない。二人で出掛けなさい」
意図を葉月本人より把握している春は断った。
「店は一人で片付けられるから、もう御殿へ戻って支度をしなさい」
「そう?でも、支度なんて特にないし…」
「とにかく、もう、帰りなさい」
「うん、それじゃあ、お祭り行ってきますね」