第5章 安土城牢屋の前にて
半ば引きずられ連れて行かれたのは、安土城と言っていたお城。
『これが本物の安土城…』
状況を考えずに、呑気に実物を見て感嘆する。
城門から中に入り、ずるずると連れてこられたのは、湿った入口の、石造りの牢屋だった。
屈強そうな、いかにも武士、という雰囲気の男が見張りとして立っていた。
「…あの、牢屋にしか見えないんですけど…」
情けない表情の葉月の問いに、秀吉は気の毒そうな表情で言う。
「その通り、牢だ」
「おまえみたいな若い娘を、こんなところに閉じ込めるのも気が進まんが…
怪しい状態で野放しにするわけにはいかなくてな。
気の毒だがここに入ってもらう」
秀吉は済まなさそうに葉月に言い、そして続ける。
「おまえは上杉の者でない証拠があれば、ここから出してやるがな…
上杉の者が安土にいたら、偵察に来たのかと、とっ捕まえるのは必然だ。
今は特に警護を厳しくしなくてはならなくて、しばらく我慢してくれ」
心底気の毒だと思って話してくる秀吉に、反対にこちらが申し訳なくなってくる。
「…おまえ、上杉謙信と関わりがあるのか?」
少し離れたところから、低く艶めいた声がした。
「…光秀」
秀吉が男の名前を呼んだ。