第2章 群青の空/犬夜叉/殺生丸/妖怪夢主
繭は唇を噛む。
何故 繭の命を悪戯に永らえたのか。こんなことを望んだ覚えもないと言うのに。
剥がれそうな額の鱗をさらに寄せ、犬の背を強く睨んだ。
「殺せっ…!獣に救われる命は持ち合わせておらぬ」
金の眼がゆるりと振り返る。そこには殺気もなければ憐れみの念もない、無情な色をした瞳は只管に無関心を貫いていた。
「身を破られた竜はいずれ死ぬ。もとより、生きる意志もない貴様など殺す価値もない」
「…………………………っ」
言われる通りだ。この身は放っておいても時期に死ぬ。鱗に深い傷を負った竜は長くは生きられないさだめとされていた。
それを理解していながら横から手を出し、殺してくれすらしないとは それあまりにも無慈悲であろう。
「せめてもの情けもないのか…妾に尚…生き恥をさらせと言うのか……っ」
「貴様の生き様に興味はない」
「……っ」
ざわりと背筋が粟立った。充血する眼球が濃青に染まり爪先がみしりと軋みだす。心の臓が熱を放つ。
「仔犬めが!!お前から先に噛み殺してくれる!!」
もう残っていない力を全て解放した。
人型から本来の竜の姿を現した。白い竜は尖る牙をむき出しながら大きな地鳴りを引き起こす。空気が震える程吠えてみせれば その反動で身体が崩れ ぼたぼたと臓器の一部が落ち青い体液を散乱させる。転々と骨までが露出していた。
殺生丸は微動だにせず、たった一言呟いた。
「呆れる。」
殺生丸はその身をふわりと宙に浮かせる。
血塗れの目は霞んでしまってよく見えなかったが、端整な瞳を伏せ髪を靡かせる犬の様は 息が止まるほど美しかった。