第2章 群青の空/犬夜叉/殺生丸/妖怪夢主
「獣め。ここは本来 お前ごときが易々入り込める地ではない、生臭くてかなわぬ」
「くぉら女!助けて頂いた分際で何っっと言う口の聞き方じゃ!!」
横槍を飛ばすのは虫けらみたいな妖怪だ。その主はたった一言で従者を黙らせ再び地獄図に視線を落としていた。
思わず視線を重ねてみる。本当に、そこはただただ青かった。平和な風景は今やどこにも見当たらない、散り散りに食い荒らされた仲間達が「無念、ああ無念」と訴えているようだった。
皮肉にも、繭の口元は自然と緩んでいた。
「物見遊山にしてはさぞや愉快な情景であろう」
「ここは紫龍峰か」
的確な指摘を受け俄かに眉を詰めた。傷ついた額の鱗がびきりと歪み鮮血が目に沁みてくる。小声を出せば口の中に苦い味が広がった。
「……気が済めば妾を食らい早々に立ち去るがよい」
「竜の都、栄誉ある白竜の国と昔に聞いたが 今はその様はないと見える」
犬の妖怪はその場を去ろうとした。
「待て」
地に両手をつき上半身を起こせば、穴の開いた腹から 中身がどろりと流れてくる。そこをきつく押さえれば繭の指は身体の中へまで埋まってしまう。ぬるりと柔らかい臓物に痛覚はなく皮膚表面だけが燃えるように熱かった。
痛みと屈辱から解放されるのも時間の問題であったのに それをしようとしない妖怪へ向かい、声を絞り出した。
「っ食わぬのか……?下界の妖がこぞり欲する竜の身を」
「腐りかけの餌などいらん」
犬の爪でも牙でもなく、返ってくるの冷たい言葉だった。身を裂かれる感覚を期待したのに それは訪れる気配がない。ぺけぺけと杖でこちらを威嚇してくるのは、煩い小妖怪だった。
「戯け者め!礼くらい述べぬかっ!殺生丸様にただでお命を救ってもらうとは この贅沢もんが」
「……………………礼だと?」
「さよう!!!って、ええ~?!殺生丸さま待ってーー!!!」