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〈短編〉気まぐれに色々

第2章 群青の空/犬夜叉/殺生丸/妖怪夢主


むかしむかし、栄誉ある竜の国がありました。その国の名は“紫龍峰(しりゅうみね)”と言ったそうな。

俗世界とは完全に分断された空間に位置する紫龍峰を統治するのは、雅なる白竜の一族だった。強さと美しさを備えた白い竜の栄華は、夢物語として様々な地で語り継がれていた。

竜の肉は不老不死の力を宿し、光る鱗からは強靭な神器が生み出されたとか。

実態不明の紫龍峰は 聖域であると同時に 彼等の力を隔離する場でもあったと言う。竜の力を恐れた神々が竜達を別空間に閉じ込め、俗世と通ずる事を一切禁じてしまった。

浮いた話ばかりが尾びれを連れて飛び交う中、いつしか紫龍峰の存在は伝説となる。

時は流れ永らえて、伝説は次第に色を失い 古い神話になってしまった。



まだ幼少期に聞かされた話によると、外世界の住人達はこの紫龍峰をそのように認識しているらしい。

勝手なるその評価はあまり好きではない、繭はずっとそう思っていた。6代目の姫として産まれ早数百年、厳しい両親と優しい家臣に愛され生きていた。

外の世のことは殆ど何も知らなかった。外の者もまた同じ、竜の事を何も知らず勝手に神聖化し、崇め、恐れ、挙句には化け物扱い。行き着く所は立派な幽閉とも言える。

だが、実態の竜は決して彼等の認識通りではなかった。長い年月をかけ、竜を「腫れ物」にしてしまったのは下民達の恐怖に怯えた心なのだ。

竜は本来堅実で真面目、決して驕ることはなく慎ましやかに生きている。何万年もの長い長い時間を 緩やかに、流れに逆らわず丁寧に刻んでゆく。それこそが竜の選んだ質素な暮らし方だった。多くを望まず日々に感謝をする。自らの家族と、この紫龍峰に住まう仲間達を何より大切にしてきた。

『外界がこちらを拒むなら、こちらも外界を受け付けない。かわりに何も望まない、故に何も望んでくれるな』

生まれた時からそう決まっていた、そしてそれに従ってきただけだった。今にして思えばそれが最大の失敗とも理解出来ずに。

竜は無欲であるが故、訪れた災いへの対応が出来なかった。

ことは一瞬、紫龍峰は地獄に変わった。流れに従った結果はあまりにも残酷だった。

あたり一面が青だった。
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