第1章 日常/鬼灯の冷徹/白澤/裏/対モブ女
「…おはようございまーす」
入り口を開けながら繭は形式的に声を出した。今朝は普段より早く到着したのだから 元気な挨拶が返ってくる事は想像してはいなかったが もしかしたら納期に追われた主人がせせこましく手を動かしている可能性も無きにしも非ず、控えめに極楽満月へと顔を出したという訳だ。中はいつもの薬草の強い香りがして、シンと静まり返っていた。
「……桃太郎さーん?白澤さまー?」
やはり返事はない。繭は昨日やり残した作業を進めるべく、準備にに取り掛かろうとした。
「ん……?」
ふと、白澤がよく休憩に使っている部屋の前を通り過ぎた際 ふんわり酒の臭いがした。そういえば昨日 主人は衆合酒場へ飲みに行くと話していた事を思い出した。
「白澤さま、いらっしゃるのかな?」
白澤が飲み過ぎて潰れ二日酔いにのたうち回る醜態は何度も見た事がある。もしかしたら昨夜もここで寝明かし 不吉な呪文を唱えながら厠と友達化しているかもしれない。本日は納期の迫る仕事もあるしさっさと回復をさせないと困るのはしわ寄せの来る繭や桃太郎だ。
だらしのない主人は兎も角、極悪非道を絵にしたような鬼が従業員に対しても八つ当たりという理不尽な暴力を振るう可能性も否定は出来ない。そう判断し 繭は一切の悪気もなく部屋の扉を開く事となった。
「白澤さまっ おいでなのですか?!まさかまた飲み過ぎて、
「…………」
「…………」
「…………」
「…………オハヨ 繭ちゃん」
「ぎゃあああああああああああああああああ」
全容は定かではなかったが そこにはどう見ても男女の桃色図が広がっていた。繭が派手な悲鳴を上げてしまったのも致し方ないだろう。主人が大の女好きで日夜女性遊びをしている事は理解しているつもりだが直接「接合現場」に出くわしたのはこれが初めてだったのだ。