第4章 温泉旅行/呪術/五条悟/非術師彼女/※途中
いつものことだが対応が軽い。とてつもなく。こちらはそれに逐一振り回される羽目になる。
眉間にシワを寄せる繭を他所に、五条は伸びた背をかがめ運転席から降り立つ。隣に並ぶと相変わらず この長身の前ではこちらはすっぽり影に隠されてしまう。五条はポケットからスマホを取り出しながら言う。
「まあそうカリカリしないで。行こうか」
「行くってどこに。都内を車で回ろうとか超非効率なんだけど」
「あ、繭は渋滞でイライラする方?ますますカリカリしちゃう感じ?」
「っ」
苛々させているのは誰だ、そう喉まで出かかり下から五条を睨み上げた。口を開こうとする瞬間 ぽんと肩に片手が触れる。
「ご安心を、今日は僕と行く癒しのひとときへご招待。本日の行き先はこちらでーす!!」
「…え…」
目の前に降りてきたのは、摘まれた五条のスマホだった。画面には繭でも知る高級老舗と言える星付きの温泉旅館が表示されていた。都内を外れた所に位置する有名スポットで、日本観光に来ている富裕層の外国人にはえらく人気の宿だとか。思わず目をしばたいてしまう。
「行くって……ここに?今から?」
「ウン。前に僕とのんびりしたいーって言ってたし」
「言ったけど……え、急過ぎない?」
「まあまあまあ。せっかく予約も時間も取れたんだから。さ、どうぞ?」
五条は当然のように、片手を運転席に向け繭の乗車を促していた。
「……何?」
「繭ちゃんが、連れてってね 僕を」
「……なんで」
「運転は割と得意っしょー?知ってんだから」
正直、急な高級旅館デートの提案には度肝を抜かれたし見直したとも言える。それなのに当たり前に彼女に運転をさせるあたり、やはりチグハグが目立つ男だ。ポケットから取り出した車のスマートキーを無理やり繭に握らせた後、五条は助手席の方へ足を回してしまう。
繭は大きく溜息をついた。運転はそこそこ得意なのは本当のこと、以前どこかのタイミングでそんな話題をぽそりとしたが 良くも悪くもそれを覚えていてくれたようだ。初のドライブデートなのだから彼の運転で、と行けば理想ではあるが 着替えの時間すらないくらい忙しい身を考慮すれば 運転くらいは致し方なしの範疇だろうか。
繭は運転席へ身を滑らせた。