第4章 温泉旅行/呪術/五条悟/非術師彼女/※途中
一番後ろに下げられたシートを前に移動させようとすると、助手席のシートがガクンと一気に後ろへ下がる。体格差からすると無理もないのだが。
「あ、僕の脚が長過ぎて繭じゃアクセル届かなかったよね」
「わ、私だって脚は長い方だもん!!」
「はいはい。行き先はナビに入れてあるから法定速度5割増しの安全運転でお願いしまーす」
「意味がわからない」
相変わらず ちゃらんぽらんだ。五条はリクライニングをやや強め差し入れと称して缶コーヒーを1つくれた。ミルクたっぷりの激甘いやつ、自分も同じものをあけそれを口に運んでいた。
ルートは高速を使い1時間半くらいだ。温泉地に行くには着替えや化粧品の持ち合わせはないが、老舗ならば最低限のものは揃っているだろうか。そんなことを考えながら繭は車を走らせ五条に話しかけた。
「まさか車で来るとは思わなかった」
「いいでしょ?ドライブデート」
「うん。ドライブはいいんだけど……この車、悟の?」
「いや 営業車。擦んなよ」
「え?そうなの?……なんか緊張する……」
「ま、繭ちゃんのドライブテクなら余裕でしょ」
五条は隣で思い切り伸びをする。長い腕をわざとらしくこちらの後頭部にぶつけてきた。
その時、ちょうど赤信号になる。繭は隣ですっかりリラックスモードの五条を見つめ言う。
「あ〜あ もう」
「んー?」
「ドライブ初めてなんだし 悟が運転してるところ見たかったな」
「それは高くつくねェ」
「因みにおいくら万円?」
「時価につき測定不能さ」
まったくの他愛ない会話をしながら、五条は飲み終えた缶コーヒーをホルダーに置く。信号が変わると同時に繭は前に集中する。五条はもう一度 隣で大きく伸びをする。
「最近あちこち出張続きであんま寝れてないんだよね」
「……そうなんだ」
「着くまでちょっとだけ寝かせてよ。でないと寝落ちしそうで」
「……体力オバケのくせに」
そしてもう一度、赤信号 よく信号に引っかかるものだ。
それを見越したように 五条は片手を伸ばし繭の肩にかかる髪に触れてくる。我ながら 今は自信を持ってツヤツヤのさらさらだ、長い指がもて遊ぶように毛先を遊ばせてくる。