第5章 素質
ー 見たいものってこの事か?
光秀は俺に見たいものが
見れると言ったが…
今目の前にある光景が
見たかった光景とは思えず、
ついあらたに声をかける。
「 お前…ここで何してる、」
俺の声に気づいていたのか
驚きもせずこう答える。
『 …喉が渇いたので、』
ー 俺がいるのをわかっていたのか?
後ろを振り向きもせず、
また一口、水を飲むあらたに近づくと
髪からは水が滴り落ち、
夜着が肌に張り付いていた。
「 …お前、汗だくじゃないか。」
『 …そう…ですね。』
そう言って何事も無かったかのような
横を通り過ぎるのを引き止める。
『 …いっ…、』
「 これは?」
痛む手をあえて掴むことで
逃げられないようにする。
今考えると俺にしてはタチが悪いやり方で…
でもこいつはこうでもしないと
話さない。そう思ったのだ、
ー そうそう見逃せるはずもない。
何故にこうなった?
何故、ここへ来た?
何故、全てを諦めたような目で
俺を見る?
あらたの目を見ると深く深く
自分自身の負の海に沈められるような
そんな感覚に陥る。
もう後戻り出来ないような…そんな感覚。