第5章 素質
別に毛嫌いしている訳でも
邪険にしている訳でもなかった。
生気がない目に
読みとれない表情。
見ているだけでムシャクシャした。
そう、自分を見ているようで…
「 自分に似ていて苛々するか?」
「 …っ! 」
その言葉に我に返る。
大名からの文に目を通し
細かな仕事の処理をしている所、
光秀が部屋を入るなり
何もかも見透かしたような
言葉を投げかけてくる。
「 入ってくるなら一言声をかけろ、光秀。」
「 なんだ、やましい事でもあるのか?」
「 …はぁ、それはお前じゃないのか?」
文机から光秀に目線を向けるも
相変わらず涼しい顔をして
何を考えているかわからない。
ー こいつも一緒なんだよな…
光秀もまた何を考えているか
読めない奴だが、あらたと光秀はまた違う。
ー 光秀…こいつは違う意味で
命を捨てれる覚悟をしている。
「 で、俺に何の用だ?」
「 あらたの事だ。」
ニヤリと意味ありげな顔で話し出す。
「 昨日、政宗と家康で城下に
あらたを連れて出たらしい。
その時に面白い事を
政宗も家康も聞いたらしくてな…。」
「 なんだ?」
俺の言葉に食いついたと言わんばかりに
またニヤリと笑う光秀が話を続ける。
「 あらたの記憶力…
一度通った道は忘れないと口にしたそうだ。」
「 …それだけか?」
「 いや、まだ確信とまではいかないが
…耳も相当いい。音の聞き分けや気配、
表情さえ感じ取っている。」
「 …信長様は?」
この時ばかりは光秀の考えが
読めてしまう自分に嫌気が差す。
いつもこうだったら
光秀にもあらたにも苛立ちを
覚えずに済むのだろうに…。