第5章 素質
『 …あなたは俺を嫌ってるはずじゃ?』
俺の言葉に目を見開く。
何処かバツが悪そうに笑いながら
さっきよりも少し離れた場所に座った。
「 信用してないわけじゃない。
ただ…お前を見ていると、
自分を見ているようで腹立たしかったんだ。」
『 …自分?』
「 お前…いつ死んでもいいと思ってるだろ。」
『 ……。』
悲しそうに笑う秀吉に
何も言えずにいる自分。
わかっているかのように
深くは聞かず、ただ静かにお茶を飲む。
「 …この事は周りには秘密にしておきたいんだな?」
『 出来る事なら、』
「 だが…次に何かあっては遅い。
…信長様にだけはこの事は耳に入れさせてもらう。」
『 はい。』
それだけを言うとすっと立ち上がり
夜着と手拭いを渡される。
「 これに着替えろ…そんな夜着着てたら
誰に見つかるかわからないだろ?」
『 ありがとうございます…』
「 それと…敬語じゃなくてもいい。」
ポリポリと頬を掻きながら
今までのことを申し訳なさそうにしている秀吉。
『 …わかった。』
この時代だからなのか
それともこの人がお人好しなのか
それともこの時代がそうさせているのか
自分の時代には無かった人の優しさに
触れた気がした。