第5章 素質
「 お前…ここで何してる、」
『 …喉が渇いたので、 』
後ろを見なくても声だけでわかる…
ー 豊臣秀吉。
足音が聞こえたから
女中だといいなと思っていたが…
厄介な人物が現れてしまった。
ー この人がここに来るとは…
近くに来る前に
スっと夜着を着直す。
「 …お前、汗だくじゃないか。」
『 …そう…ですね、』
すぐに部屋に戻ります、そう言って
横を通り過ぎるつもりが
怪我をしているほうを掴まれる。
『 …いっ…、』
「 これは?」
振り返るとそこで初めて目が合った…
真剣な眼差しで、あんなにも俺を邪険にしていた
豊臣秀吉が動揺している。
目が…瞳が揺れている。
「 何があったんだ… 」
『 あー…規則的にあるんです。身体中に痛みが…
力任せに抑え込んだせいで…たまたまです。』
別にこんな事は
誰かに話すことでもないと思ってた。
だがこの場の空気が…揺らぐ瞳が
話さなければならない状況なのだと
『 ………。 』
「 …お前は馬鹿なのか?」
そう言うと掴まれた手をそのままで
ズンズンと自分の部屋とは違う方向へ
連れて行かれる。
『 この事は…』
「 いいから黙ってついてこい。」
掴まれた手が痛いとも言えず、
そのまま言われるがままに
手を引かれてついて行く。