第1章 面影 〜サスケ〜
「姉さん……姉さん…………」
サスケが少女の細い身体を抱きしめ、うわ言のように呟く。
姉の白い肌の温かさを、サスケはもう失いたくなかった。
「……どうしたのサスケ?なにかあった?どこか痛いの?」
なかなか離れてくれない弟に、少女は混乱し、オロオロしたようにサスケの頭を撫でる。
優しく穏やかな声に促されて、サスケの心は限りなく素直になっていった。
「……とても、怖い夢を見たんだ…………ある日、アカデミーから帰って来たら……姉さんがいなくて……
兄さんも……他のみんなも…………」
サスケが絞り出したような声で囁く。
あの恐怖と絶望は、そう簡単に忘れられるようなものではない。
そんなことはあり得ないと否定して、抱きしめて欲しい。
サスケは少女に慰めてもらいたいと思っていることを、自分では気がついていなかった。
「……そっか。怖かったね。でもね、大丈夫。私は、サスケを置いていなくなったりしない。絶対に。
だって私、サスケのこと大好きだもん!だから大丈夫。
イタチ兄さんだって、フガクさんだってミコトさんだって、みーんな、サスケのこと大好きなんだよ?だから、ね、元気出して。」
少女はそう言って、よしよしとサスケの背中をさする。
それはまさに……サスケが望んでいた答えだった。
「……うん。」
サスケは嬉しそうに小さく呟くと、姉の身体をもう一度抱きしめた。
夢でもいい。
たとえ後で虚しくなるとしても、覚めてしまうまでは、現実のことなど忘れてしまおうと、サスケは思った。
温かくて美しくて魅惑的な…………残酷な幻想の世界に、サスケは飲み込まれた。