第1章 面影 〜サスケ〜
翌朝目覚めたとき、サスケは当然のように一人だった。
「姉さん…………」
布団から起き上がって、サスケは呟いた。
あまりにもリアルで、理想的な夢。
その余韻から覚めるには、かなり時間がかかりそうだった。
サスケはつとめていつも通りに朝の支度をし、アカデミーに向かった。
兄を殺すために修行を続ける日常に戻り、昨日までの自分を思い出し……夢から醒めるために。
あんな幻想に囚われているようでは、イタチは殺せない。姉さんの仇を取れない。現実を受け入れねば。
そんなことを考えながら、教室の扉を開こうとしたときだった。
「……あ、いた。お〜い、そこの君〜!」
サスケの背中に、高めの明るい声がかけられる。
聞きおぼえのあるそれに振り向くと、昨日の少年が笑顔で手を振り、駆けてくるところだった。
直前まで姉の顔を思い出していたせいだろうか、少年の顔は記憶の中の姉の面影とピタリと重なった。
思わず目を擦って、見間違いかどうか確認したくなるほどに。
「……うちはサスケだったよね?おはよ。」
少年がニコニコと人懐っこく笑い、朝の挨拶をする。
「…………お、はよ。」
サスケは回想の中からまだ出られていなかったが、なんとか返事した。
そんなわけないんだ、だいたい姉さんは男じゃない。髪も黒くないし、目も赤くない。
そう思いながら。
少年はサスケが挨拶を返してくれたのが嬉しかったのか、満足そうに笑うと、サスケより先に教室の扉を開いた。
「うん。おはよ。サスケ、先に通りなよ。実は結構時間ギリギリだし。ね?」
「あ……ああ。」
サスケは少年の前を通ると、無意識に昨日夢の中で座った席に着いた。
サスケについてきた少年がその横に座り、サスケはまた既視感を感じた。
ナルトは遅刻したけれど。
イルカの説教で、今日もアカデミーが始まる。
昨日と違うのは、サスケが皇レイという少年を、その存在を、ほんのちょっぴり意識していたことだった。