第1章 面影 〜サスケ〜
「うん?イタチ兄さんがどうかしたの?
あ、さては、イタチ兄さんがもう二日も帰ってないから、寂しかったんでしょ〜!」
少女はサスケの気など知らず、そう言って耳元でクスクスと笑った。
「な…………ちが……」
「ま、いっか。とにかく、早く起きなくちゃ。始業まで、もうそんなにないんだから。
アカデミー卒業一週間前に遅刻なんて、かっこ悪いじゃない。
わかったらほら、はーやーく!」
少女はサスケの呟きを軽く流すと、サスケの腕を振り解き、ペチ、とサスケの頰を叩き、にっこりと笑った。
「……う……うん!」
サスケはひりつく頰をさすりながらも、嬉しさに唇を綻ばせていた。
今自分の目の前には、愛してやまない姉が、確かにいる。
それだけで、サスケには十分だった。
顔を洗って寝間着を着替え、食卓に顔を出すと、そこにはちゃんとした朝食が並んでいた。
既に食べ終わっているようで、少女は座布団に座って静かに緑茶を飲んでいた。
「あ、サスケ、やっと来た。ほら、早く食べちゃいなさい。
もー、フガクさん達もみんな任務でいないからって、寝坊しちゃダメでしょ。」
サスケに気がつくと、少女は白いご飯の盛られた茶碗を差し出し、やれやれ、と言いたげに苦笑した。
「うん……気をつけるよ。」
サスケはその茶碗を受け取りながら、姉の小言にくすぐったいものを感じていた。
「……もう。まあいいや、内緒にしておいてあげる。あ、おかかのふりかけ、いる?お味噌汁飲む時間あるかな?」
少女はふぅと溜息を吐いてから緩く笑うと、甲斐甲斐しくサスケの世話を焼き始めた。
「……うん。」
サスケは姉に世話を焼いてもらえる幸せを噛み締めながら、手早く朝食を片付けた。
姉さんが生きていたら、きっとこんな感じだろう。
このときのサスケはまだ、この夢に浸りきれていなかった。