第1章 面影 〜サスケ〜
「……ハァ。」
修行を終えて夕食を摂り、風呂に入ったサスケは、寝ようとしているところだった。
布団に入って小さな溜息を吐き、目を閉じた。
その身体を包む夜の帳は、今のサスケが唯一、安らげる場所だった。
ゆさゆさ。
肩を揺すられる感覚に、サスケはふと目を覚ました。
いつの間にか部屋の中は明るく、窓の外では小鳥が気持ちよさそうにさえずっていた。
「……ん……」
「サスケ〜、起きてよぉ〜…………」
聞き覚えのある少女の声に、サスケはハッと目を見開いた。
まさか…………そんなことがあるわけがない。
それでも、期待せずにはいられなかった。
叶わないとわかっていても、願うだけ虚しくなるだけだとわかっていても。
それでも…………恋しくて恋しくてたまらない、彼の姉。
懐かしい声は紛れもなく、彼女のものだったのだから。
「ね、ねえ、さん……?」
サスケは背後にいる人物に、恐る恐る声をかけた。
ありえない。これはきっと夢なんだ。
そう思っていても、彼はそれを肯定して欲しかった。
「なんだ、起きてるんじゃない。早く顔洗いなよ。朝ご飯、もうできてるよ。」
少女はうんともいいえとも言わず、そう言ってサスケの側を離れようとする。
「っ…………待って!」
サスケは慌てて起き上がると、勇気を出して後ろを振り向いた。
そこにいたのは…………ああ。
「ね、姉さん…………」
サスケの後ろにいたのは、サスケの想像通りの、真っ白な少女。
朝陽を浴びたその姿は、記憶の中の彼女よりも少し大きく、眩しい輝きを放っていた。
「姉さん…………姉さんっ!」
「わわっ⁈」
突然大きな弟に抱きすくめられて、少女はびっくりしたような声を漏らす。
「姉さん…………姉さん…………姉さんっ!」
サスケは腕の中の存在を確かめるように、少女をギュッと抱きしめる。
もう二度と、触れられないと思っていた。
ありえない存在を前にして、サスケはひたすらそれにしがみついていた。
「あはは、サスケ、どうしたの?怖い夢でも見た?」
少女が能天気に笑って、からかうように訊く。
「姉さん…………だって……兄さんが…………兄さんが、姉さんを…………」
サスケは少女の白い衣を涙で濡らしながら、くぐもった声を出した。
姉さんを……その先を言うことができるわけはなかった。