第1章 面影 〜サスケ〜
そんな、じれったい攻防を一頻り繰り広げると、少年は唐突にサスケから離れた。
「……ごめん!急用思い出しちゃった。行かなくちゃ。それで、あの……
……君、強いね。名前は?」
「……うちはサスケだ。」
サスケは少年の急用の件については突っ込まず、シンプルにそう答えた。
サスケのほうも、もう十分相手の実力を知ったと思ったので、そう不満ではなかったからだ。
この、うちは的配色の少年は、強い。
サスケは少年を、新たなライバルとして認めつつあった。
「そっか……うちはサスケか……じゃ、また明日、アカデミーで。」
「ああ。」
またどこかに向かう少年に、忙しいヤツだな、と心の中でツッコミを入れ、
そういえばどうやってここに来たのかなどと疑問を抱きながらも、サスケは何故か穏やかな気持ちで、その背中を見送っていた。
「…………変なヤツ。」
そう呟いたサスケの脳裏には、少年の美しい微笑みが、まだ残っていた。
記憶の中にその面影を持つ人物を見つけて、サスケは切ない気持ちになった。
「姉さん…………」
サスケの姉、うちはルナ。
彼女の喪失は、サスケにとってとても重いダメージだった。
"あの日"の直前まで、サスケはルナと仲良く楽しく、幸せに暮らしていた。
姉を、一族を自分から奪った兄を、サスケは憎悪し、復讐のために、今日まで生きてきた。
だが、そのためには昔の幸せだった頃を否定しなければならなかった。
姉との思い出、その中にはほぼ必ず、兄のイタチがいるのだから。
サスケは当時七歳のルナの、優しく清らかな笑顔を打ち消すと、再び修行にのめり込んだ。
人間らしい感情を捨て、憎しみに身をやつす復讐鬼になるために。