第1章 面影 〜サスケ〜
「……んなっ……す、好きって……」
サスケは昼休みの出来事のせいで、『好き』という言葉に敏感になってしまっていたため、柄にもなく狼狽えた。
それは、男性としてではなく、あくまでも弟として、家族としてであることはわかっていたが、それでも。
「……ん?サスケ、どうしたの?そんなに慌てて?」
鈍感な少女は、サスケが何を思っているかなどわからない。
自分の何気ない仕草ひとつひとつが、弟を誘惑してしまっている、彼女はそんなことに気がつくような人ではなかった。
「……っ……な、なんでもないよ。」
サスケもそれを察し、慌てて態度を誤魔化した。
この気持ちを知られたら、きっと姉に嫌われ、軽蔑されてしまう。
そんな、恐れからだった。
「ふ〜ん……なんか今日のサスケ、少し変だよ?」
少女はコロコロと態度を変える弟を、少し怪訝そうに見ていた。
「……そ、そうかな…………」
否定することができず、曖昧にそう返す。
「うん。だって、いきなり顔赤くしたり、外で抱きついてきたり……変だよ。」
はっきりしないサスケに、むぅ〜と少女が唇を尖らせる。
「ごめん……姉さん。」
サスケはどう言えばいいのかわからなくて、闇雲に謝っていた。
「……別に、謝らなくていいんだよ、サスケ。そんな日もあるよね。ごめんごめん。
さ、修行を始めようか。」
少女はサスケが萎縮してしまったのを見て、言い過ぎてしまったと思ったようで、そう言って笑顔を作った。
「……う……うん。」
サスケは頷いて気持ちを切り替えると、少女に笑い返した。
たとえ思いを伝えることができなくても、そばに居られるだけで幸せじゃないか、と、自分に言い聞かせて。