第74章 キミのトナリ オレのトナリ(及川徹)
押し倒した身体から離れて
徹が立ち上がり
それ以上何も言わずに
玄関のドアが閉まる音が響く
シーンとしてしまった部屋の中
やっと気付いた
食べ物の匂い
慌ててキッチンへ行くと
作りかけの料理と
開きっぱなしのレシピ本
【体調が悪くても
食べられるご飯】
太文字で書かれタイトルに
ジワリと涙が溢れて来る
私がついた嘘を心配して
ご飯作りに来てくれたんだ
なのに私、あんな事…!
慌てて飛び出して
徹の後を追う
ゴメン、って
言わなきゃ…
そう思って走った
私の目に映ったのは
立ち止まる徹の背中と
「意味分かんないよ…」
寂しそうな声
これが独り言だったら
"ゴメン"って飛び出して行けたのに…
「ちょっと、大丈夫?
顔死にそうだよ」
大きな背中で隠れて見えないけど
聞いた事のある声
なんで…また
サクラちゃんが居るの?
元々家は近いから
偶然遭うことだってある
今までも偶然は何回もあった
でも…なにも
その偶然が今来なくても
良いじゃない。