第72章 ♑瞳を閉じても(赤葦京治)
「姫凪さん…?」
一応出した声も暗闇に吸い込まれ
虚しく消えて行く
どこに居るんですか?
誰と居るんですか?
LINEにしても
電話にしても
問い詰めて責めてしまいそうで
携帯を持ったまま動けない
どうしたらいい?
何も見なかった事にして
帰ればいいのか?
この部屋で帰りを
待てば良いのか…
この部屋で?一人で?
「…寂しすぎるじゃないですか…
何してるんだよ…終電だって
もうすぐなくなるじゃないか…」
虚しく漏れて響く独り言
返ってこない声に開かないドア
ドンドン気持ちが落ち込んで
黒く澱んで行く
[姫凪さん
もう寝てますか?]
あり得ない質問を作って
送った指先に
振動が伝わる
……嘘、だろ?
[うん、今日は疲れたから
もう寝るよ]
もう寝る?
どこでだよ
貴女の寝る場所は
この部屋の
あのベットだけじゃないんですか?
あり得ない質問に返ってきた
あり得ない返事に
何かがガラガラと崩れていく