第72章 ♑瞳を閉じても(赤葦京治)
「姫凪さんも…もう帰って
寝てるかな…」
自分の部屋の鍵の横で揺れる
姫凪さんの家の鍵
連絡なく押し掛けるのは
常識があるとは思えないけど…
「逢いたい…な」
ユックリ身体は姫凪さんの部屋へ
向かって歩き出していた
姫凪さんのマンションの前
窓から明かりは見えない
やっぱりもう寝てるみたいだ
合鍵はある
別に抱くのが目的じゃないし
隣で寝るだけで良い
兎にも角にも
貴女の顔を見たい
モラルに戸惑う気持ちを振り切る様に
グッと足に力を込めて
姫凪さんの部屋の鍵を開ける
寝てるであろう姫凪さんを
起こさない様に
ソッと玄関を抜けるハズだったのに
「どういう事…だよ」
玄関に姫凪さんの靴がない
「まだ帰ってない?
じゃあ、今どこに?」
独り言が静かな部屋に虚しく響く
リビングもキッチンもベットルームも
今日俺が出掛けた時のままで
姫凪さんが帰って来た感じはない