第72章 ♑瞳を閉じても(赤葦京治)
「姫凪…」
誘うように甘い声を出すと
〈京治、大丈夫?
光太郎に連れ回されて
疲れちゃった?〉
予想通りの優しい声
少し気を持ち直して
「木兎さんだけだったら
良かったんですが…」
ここに至った経緯を
簡潔に伝えると
〈ありゃりゃー…
二人でユックリしたかったけど
今日は諦めなきゃかもね…〉
色々察して苦笑いが溢れる
"二人で逃げましょうか?"
冗談まじりに言おうとした
セリフが
〈でも、少し楽しみかも…
宮くん?だっけ?
京治と同じ大学の子〉
まさかのセリフで出どころを失くした
「はい?
宮に興味があるんですか?」
〈うん!ある!
会ってみたい!
昔、春高で見たっきりだし
前に大学に顔を出した時も
話せたわけじゃなかったし〉
姫凪の底抜けに明るい声とは逆に
ドンドン暗くなる俺の気持ち
黙る俺に
〈あ、京治!誤解しないでね!
話したいって言うのは…〉
慌てて何か伝えようとする姫凪さん
きっと大した事じゃないのは
聞かなくても分かるけど
それ以上に今は聞く余裕がない