第61章 クロ猫と傘と恋(黒尾鉄朗)企画転載 完結
「いや…行く…とは…
それに…向こうの気持ちだって…
俺…こんなだし…」
「どっちにしても
傘を返さなきゃ進まないでしょ
…まぁ、好きにしなよ。
おれが頑張れるのはココマデ
チョット早いけど誕プレ。
後はクロ次第」
喋るだけ喋ってポテンとベットに沈み
程なく寝息を立てる研磨
さっき浮かんだ万が一に
足はユックリ部屋から廊下へ
廊下から玄関へ俺を運ぶ
雨水を広げて佇む傘は
この傘の持ち主を思い出させて
「逢いたい…姫凪さん…」
俺を家の外に向かわせた
まだ雨はシトシト降ってて
さっきよりも冷たく感じる
地面を蹴り上げて
速度を早める足に絡み付く雨水
さっき温めた足先が冷えても
速度は上がり続けて
懐かしい部屋の灯りを瞳が捉えた
電話を掛けて呼び出そうとも考えた
でも、きっと伝えたい言葉は
どうでもいい話に変わってしまうから
震える手で押したインターホン
『…クロ…くん?』
「え?」
ドア越しに聞こえた声に
思わずドキリとして
裏返る声
期待なんてしちゃいけない
そう思えば思う程
「なんで分かった?」
『それは…』
俺とアンタの気持ちが
「『傘…』」
一緒なんじゃないかって思ってしまう