第61章 クロ猫と傘と恋(黒尾鉄朗)企画転載 完結
「ゲッ…マジかよ…」
もちろん傘なんか持ってなくて
大粒になる雨粒に
自慢のトサカ頭は力を失くして行く
家に…帰ってもなァ
一人寒さに震えるだけだし
そう思いながらも
11月の空気に震える身体は
その場から離れようとしてた
その時、見ていた様に揺れる携帯
「あぁ…ここで連絡とか…」
ディスプレイに浮かぶ名前に
出るため息
フラりと寄るには重すぎるんだ
「…姫凪さん
どうしたんですかァ?」
〈呼ばれた気になって
違った?〉
いや、この人が じゃなくて
「…違わねぇ。
なァ、今どこ?家?」
俺の想いが。
『ここですよ?クロネコさん』
「姫凪さん!?」
いつの間にか近くなってた声
遮られた雨
振り返った先には
『久しぶり、クロくん』
相変わらず綺麗な笑顔
「相変わらず俺を驚かせるの
お得意な事で…」
『たまたま見つけただけだよ?
そしたら…あの時みたいに濡れてたから…』
姫凪さんと逢ったのは
数ヶ月前の同じ様な雨の日
親父と些細な事でケンカした
別に仲が悪いわけじゃない
親父になにかされたわけでもない
ただ俺が荒れる時期だっただけ。
そんな日は
家に居るのが嫌で仕方なくて
夜を渡り歩くのがクセになってた
あちこちに作ったネグラ
でも、その日は今日みたいに
誰も捕まらなくて
突然の雨に濡れてたんだ…