第61章 クロ猫と傘と恋(黒尾鉄朗)企画転載 完結
「クロ、帰らないの?」
「あ~…夜の街が呼んでますので…」
部活終わり
幼馴染の孤爪研磨に
ヘラリと嘘くさい笑いを見せて
汗にまみれたTシャツを脱いで
携帯をチェックする
アドレス帳の中には女の名前が
特徴と一緒に登録されている
「また?
…ご飯食べに来る?
今日、母さんがサンマ焼くって…」
「大丈夫ですぅ~
飯場には困ってないからねェ。
親父が出張から帰るまで
気ままな野良猫生活なんだから
邪魔しないでクダサイ」
「クロ…」
「じゃあな~
ゲームで夜ふかししてんなよ~」
研磨の声を遮って背中を丸め
部室を出る
「今日は誰にすっかな…」
飯が美味いとか
アレが巧いとか
登録された電話帳を眺めて
あまり乗らない気分のギアを
無理矢理上げて
【ナナちゃん(飯上手)】
携帯の画面を擦る
「もしもーし?
ナナちゃーん?
ヒマですかァ?」
相手にこだわりはない
強いていえば
腹減りだから
猫なで声を出して甘えりゃ
大抵成功なんだけど
〈クロくん?
今日残業でさー…〉
「ざァんねん。
んじゃあ、またヒマな時ねー」
今日は不調で
飯美味な寝床は全滅。
かと言って家に帰る気にもなれなくて
ガードレールに腰を掛けて
大きなため息を吐く
それに釣られる様に
ポツポツと雨が降って来た