第12章 ♢ストレートと不器用。【白布賢二郎】
その日の夜、寮に戻っても二人のことが頭から消えずよく眠れなかった。
「しーらぶ、」
「…なんだよ、前田か」
次の日の昼、まだなんとなく心がムカムカして気分が乗らないでいると、机の前に前田が立っていた。
すごい仲良い訳ではないが、たまにこうやって前田が話しかけてくる。というか、コイツは誰にでも話しかける。
そのおかげかあまり女子と話さない俺でも、特に気を使わず話しかけることのできる唯一の女子である。
「今日からバレー部テスト休みでしょ?お願いっ!少しだけ英語教えて!!!」
「はあ?なんで俺なんだよ」
思わず出た本音ではない言葉。頼られたのは嬉しいけど思わずそう言ってしまった。
あー、最悪。何言ってんだよ、いいよって言えよ、俺。
「え、だって白布勉強教えるの上手そうだし、白布ちょいちょい怖いから私でもちゃんと勉強できそう」
ニッと笑う彼女は褒めてるようで少しだけ俺のことを馬鹿にしている。子どもっぽい笑みが彼女らしい。
「少しだけだからな」
「やったね!白布やさしーい」
また都合のいいこと言って。
でもなんだか少しだけ気持ちが晴れたような気がした。