第9章 ♢色っぽくて意地悪なキミと。【松川一静】
「なんだ、てっきり俺に見惚れてたのかと」
いつものような表情をして、松川はさらっと言った。
見惚れてた?…え?
「な、な、なんで…」
「あれ、図星なの?冗談のつもりだったんだけど」
しまった。墓穴を掘った。
見惚れてたわけじゃない。別に松川の意外と大きな背中とか手とか、優しそうに笑ったその顔とか。
見惚れてたわけじゃない。全然そんなことない。…のに。
「ち、がうよ」
「あ、そうなの?だったらなんでそんな顔してるわけ?」
松川の手が私の頬に伸びる。
触れた手が冷たく感じるのは、きっと、私の頬に熱が篭ってるから。
「なあ、そんな顔してるとキスしちゃうよ?」
「〜っ!?な、な、何言って」
意地悪そうに笑う松川は、とても楽しそうだった。
図書室の中、まるで私たちだけしかいないような空間がよりいっそう緊張させる。
何を言えばいいのか分からない。
違うって言ってもその真っ直ぐな目で見られたら、すぐ嘘ってばれてしまう気がして。